8月の後半から、気温が下がり、朝夕は15°Cを下回る、秋の匂いがしてきた。
カナダの秋は忙しい。
1年のうち6ヶ月が冬で、残りを春夏秋で分け合うカナダだが、秋は日本の冬ほどの寒さのため、日本人が定義している”秋”は短い。
その短い秋に、カナダが世界に誇るメープル街道が色づく。
花を愛でる日本人、地平線の先まで紅葉している秋のカナダに、信じられないほどの人々が訪れる。
僕たちツアーガイドにとっては最繁忙期なのです。
その最繁忙期を前に、関西から修学旅行で高校生約200人がトロントを訪れた。
僕は受け入れとトロント、ナイアガラ地方のガイドを担当した。
第3班
男女別に5つの班に分かれており、僕は第3班を担当した。
第3班は大きく分けると3つのグループでできている、
あまりの幼い顔に、2日目まで頼りになる生徒会長と勘違いしていた先生を筆頭に
1)”イェーイ、ふぉ〜ふぉ〜”
と、僕の問いかけに、すべて右手を上下させながら返事してくれるサッカー部
2)自由時間の1/3は、秋模様のカナダで、半袖になりヲタダンスを練習しているグループ
3)朝の挨拶以外、まったく話してくれない、BUSではイヤホンをつけ窓をずっと見てる系
第2グループの中野くん
ハプニング多発のトロント観光を終え、2日目はナイアガラの滝観光へ。
宿泊先のホテルから、約1時間30の車中では、”修学旅行のハイライト”夜の出来事で、一通り盛り上がった。
調子に乗った僕は、彼らと同世代でカナダ出身の、世界的に有名な歌手ジャスティン・ビーバーの話をしたが、ほとんどがジャスティンビーバーのことを知らない事実に愕然し、気づけばほとんどの生徒が熟睡していた。
僕もマイクをおいた。
そのとき、僕の真後ろの席に陣取っていた、2のグループに所属している中野くんが、座席の間から、ささやくように質問してきた。
「カナダって軍隊ありますか?」
質問の内容も相まって背筋がゾッとしたが、振り返って見た中野くんは好奇心に満ち溢れていたので、なんか嬉しくなった。
そもそも、修学旅行の予定はフランスだったらしい。
それがテロの影響で突然カナダに変更になり、カナダについて教えられも、調べても来なかったと。
”カナダ=大自然。”ぐらいの認識だそうだ。
それにしても、
なぜ軍隊?なのか質問を返すと、答えはシンプル。
将来自衛官になりたいから、カナダの軍隊にも興味あったと。
Jアラートが鳴るこの社会で
将来自衛官になりたい、と聞いて真っ先に僕は中野くんに問いかけた
「Jアラートが鳴るような社会情勢やのに、なんで自衛官になりたいの?」
日本時間の8月29日午前6時頃
北朝鮮が発射した弾道ミサイルが、日本上空を通過し、太平洋に落下したことを受け、全国緊急警報アラーム(通称 Jアラーム)が鳴った。
茶番か!
と思った僕の見解は置いといて、Yahoo Newsでも連日賑わっていたこの話題は、自衛官を目指す中野くんにとっては、関係すること。
僕の質問に対して、中野くんはすごくシンプルに答えた。
「安定した公務員で僕でも受かりそうやから。それに人助けができそうで。」
「Jアラートがなるこの状況で、怖くないの?」
「そりゃ怖いですよ。それよりも、将来安定して暮らして行けるかのほうが怖いから公務員がいいんです。」
カナダの軍隊
カナダにも、世界で屈指の軍隊があることを話し、カナダと日本の軍事に対する考え方の違いについても話した。
大きな違いは、海外派兵への考え方。
カナダは、”国連など国際的な合意が前提”
それに対し日本は、”アメリカが最優先”
これは、近年であればイラク戦争がわかりやすい。
日本はイラクに派兵したが、カナダはしなかった。
カナダは、国連での多国間の明確な承認がない、また開戦する必要性が明確じゃない状態で、アメリカとイギリスが始めたイラク戦争には参戦しなかったのだ。
カナダの、この方針は揺るぎないものがある。
PKOを生み出したカナダ
数年前からNewsでもたびたび取り上げられる”PKO”。
最近なら、南スーダンでPKOの一員として活動していた自衛隊の日報が隠されていた問題などで、知った人もいるんじゃないかな。
PKOとは、”国際連合平和維持軍”と日本で訳される。
これは、紛争や戦争をしている当事国以外の国々が、国連軍として組織され、紛争地で平和維持のために活動する軍隊のこと。
PKOが組織されるにはある条件が必要となる。
”国連の会議(安全保障理事会)での決定”
この決定が、カナダが海外派兵するときの絶対条件のため、イラク戦争には派兵しなかった。
※この他に紛争に対するカナダ
・朝鮮戦争 1950年
国連決議あり
カナダ:参戦
・ベトナム戦争 1955年
国連決議なし
カナダ:不参戦
・スエズ危機 1956年
国連決議あり
カナダ:参戦
・湾岸戦争 1990年
国連決議あり
カナダ:参戦
・アフガニスタン戦争 2001年
国連決議あり
カナダ:参戦
・イラク戦争 2003年
国連決議なし
カナダ:不参戦
超大国アメリカの隣で
カナダのお隣は超大国アメリカ。
上記に記載した戦争は、すべてアメリカが主導しているため、カナダはアメリカから強く、ときには圧力をかけられ、戦争への参加を促されてきた。
しかし、カナダはこの方針を絶対に曲げない。
これを示す有名な出来事がある。
ベトナム戦争のとき、カナダはベトナムへ派兵せず、またアメリカの強引なやり方に、当時の首相レスター・B・ピアソンは演説で批判した。
それに激怒したアメリカの大統領は、直後に予定されていた、ホワイトハウスでのピアソンとの昼食後、デッキにピアソンを連れ出し、胸ぐらを1時間にわたって掴んだ「吊るし上げ事件」
当時は世界中で話題になった。
しかし、そこらへんのチンピラみたいな振る舞いを見せるアメリカに対して、ピアソン首相はカナダの方針を曲げなかった。
詳しくはこの本を読んでほしい。
そんなピアソン首相の姿勢をカナダ人はめっちゃ評価しており、
カナダ最大の空港の名前は、”レスター・B・ピアソン国際空港”
外務省の建物の名前は、”ピアソンビル”
と名付けられているほど。
今年、世界25か国の約1万8000人を対象に実施した
「国際問題に好影響を与える国」
調査では、カナダはダントツの一位を獲得しており、世界中からも認められている。
※世界で評判の良い国ランキングもカナダは一位
カナダは超大国アメリカに寄り添うのではなく、多国間協調路線、と言われる、多くの国とどうするべきか話し合い、合意し、平和維持に介入する
それは、平和維持の難しさを理解しているからだ。
外から見えるもの
”アメリカに近い国”という共通点を持っている日本とカナダなのに、ここまで異なる。
これは北朝鮮に対しても違う。
カナダは、北朝鮮のミサイルに対して、かなり危機感を持っている。
なぜなら、もし北朝鮮がアメリカにミサイルを打ったら、カナダ上空を通過するからだ。
カナダでも連日、北朝鮮の核実験やミサイルのことはNewsになっている。
しかし、アラームは鳴らない。
それに、アメリカの強硬姿勢に賛成しているわけでもない。
もし朝鮮半島で戦争になった場合、最もその立場が問われるのが中国だと言われており、中国との対話を進めている。
中野くんいわく、日本では北朝鮮は野蛮でどうしようもなく、アメリカと同じ道を歩むことが絶対の道、ということばかり聞いているらしい。
Jアラートが鳴って余計にそう感じたらしい。
これら違いに、中野くんはかなり驚いていた。
中野くんは、これが初の海外経験だから余計に、カナダ、海外、世界と日本との違いに驚いていた。
答えは急がず
今日の朝、無事に中野くんたち御一行は、ピアソン空港を出発した。
「カナダめっちゃ面白かったです。世界を知りたくなりました。」
別れ際に、握手をしながらそう言ってくれた。
僕も23歳で、はじめて海外へ行き、世界の広さに驚き、魅了された。
はっきり言えることは、
距離的な世界感も
情報的な世界感も
社会的な世界感も
あのときよりずいぶんと広くなったってこと。
その”良かったこと”を1人でも感じてくれて、良かった。
答えは焦らず。
世界は自分が思っている以上に広いから。