僕の住んでいる地域は、地元で有名な暴走族の拠点だった。
暴走族への憧れはコレっぽちもなかった僕は、中学二年生のクラスで、お兄ちゃんが暴走族のメンバーだった子と同じクラスになった。
”友達と思える人”がいなかった当時の僕は、その子と行動をともにするようになり、そのまま暴走族へ入った。
そして、2002年2月。
ついに、16歳の僕の腕に手錠がはめられた。
あの冷たくて、寂しくて、切ない重りは今でも忘れない。
嘘をつく
未成年が逮捕された場合、鑑別所と呼ばれる施設に収容される。
その後に裁判が開かれ、3つの道に分かれる
①不処分
②保護観察処分
③検察官送致(逆走)
①は無罪だけではないみたいだが、実例は知らない。
ほとんどが②or③。
この違いが大きい。
②は少年法で審判
③は刑法で裁かれる
更生の見込みがある場合は②。
殺人など重大犯罪や、その子の過去犯罪歴から成人と同じ刑罰が必要とされた場合は③。
②は、少年法なので、前科は付かず保護観察処分。
③は、刑法なので、前科がつく。
前科が付くと個人の履歴に載るため、海外渡航の際、入国を拒否されたり、また入社の際に伝えなかったとして、懲戒解雇になる場合もある。
※刑の執行後10年で前科は消滅、もしくは執行猶予の場合は必要なし
少年法の場合、前科がつかないため、告知義務は一切ない。
少年院は少年法の一部のため、僕は入社時や海外渡航時に通知義務はない。
しかし、学歴詐称はダメ。
僕は、これまで数回学歴を詐称したことがある。
そのうち一回が、カナダでの入社時だ。
カナダはそんな国じゃない
嘘をつくのは気持ちいいものじゃない。
まして、会社の人たちは、僕を受け入れてくれているため、余計に心のどっかが引っかかっていた。
仕事がひと段落したこのタイミングで、数人の先輩に伝えた。
高卒と伝えていたが中卒であること
暴走族に入っていて、少年院に1年ほど入っていたこと
”別に伝えなくてもいいんじゃないか?”
たしかに伝えなくてもいい、とは思う。
ただ、僕は伝えたい人には伝えたい。
相手に信用してもらうために、今後も末長くお付き合いするために。
返ってきた言葉は
”気にするよな。
カナダはそういうことを気にする国じゃないから。”
なにをしたのか、は話さない
カナダに住んでいるだけあって、この言葉が実感とともに、僕の心に落ち着いた。
しかし、話すが進むにつれて、必ず聞かれることがある
”なにをしたのか”
この質問をすることについてはすごく理解できる。
僕も逆の立場だとするはず。
だけど、僕はこの”なにをしたのか”については、話すつもりはない。
その理由は2つ。
理由① 傷ついた人がいるから
話をするときは、フランクな場が多い。
僕はお酒が大好きなので、9割はお酒片手で話している。
その雰囲気で、僕が事件のことや、してしまったことを話している場を、傷ついた人が見たら心地良いものではないと思う。
僕がしたことは、僕のヒストリーだけじゃない。
必ず
誰かが
あの時傷ついた
誰かのヒストリー、でもあるから僕は話さない。
理由② ”なにをしたか”に引っ張られる
もう1つは話すことで、少なからず引っ張られる。
”少年院に入った元暴走族”
これだけで、ほとんどの人は僕に対してさまざまな先入観を持って僕に接する。
なにをしたのか、なにで逮捕されたのかを聞くと、多くの人がどちらかの反応をする。
すごい!もしくは案外小さいな。
それで自分を計られたくない。
これから一歩を踏み出すあたなへ
僕は”社会の制度上、罰が消えたから、自身の罪が消えた”とは思っていない。
ただその罪が人間性を左右するものでもないと思っている。
僕たちの頭の中には、少なからず先入観がある。
生まれに対して
学歴に対して
人の過去に対して
愛の形に対して
それを理解した上で、これらは人間性を左右するものではないし、左右されたくない。
その人は、あなたの目の前にしかいないから。